現在、約1000万人のソウル市民の中、約42%だけがマイホームを保有している。全国的に見ても持ち家率は約57%で、日本の62.1%より低い水準だ。韓国の持ち家率が低い理由は、過度な人口密度と高い住宅価格によるものだ。特にソウルの場合、ニューヨークの8倍、東京の3倍に該当する過度な人口密度(1万6728人/㎢)が住宅価格を世界最高の水準まで引き上げている。
KB銀行の不動産サイトである「Liiv on」によると、2019年11月時点で、ソウル市の住宅平均価格は6億3700万ウォン、マンションの平均価格は8億5000万ウォンだ。平均的なサラリーマンが9年間の年俸を一銭も使わなければソウルでマイホームを持つことができるという統計がある。
しかも、地域別に見ると、韓国人の羨望の対象である江南地域でマンションを買うためには、20年近くの期間がかかる。住宅を購入するのにこれほど長い時間がかかる理由は、価格が高いこともあるが、銀行の住宅ローンの上限が設定されているからだ。
韓国では、家を買うためには銀行の「住宅担保融資(住宅ローン)」を利用するしかない。ところが、これで銀行から借りられるのは住宅価格の30~40%(ソウル市の場合、全国平均は60%)に制限されているため、まとまった「シードマネー(頭金)」を用意する必要がある。
仮に、ソウルで8億ウォンのマンションを購入しようとした場合、銀行から借りられる金額は3億2000万ウォンが最大で、4億8000万ウォンのシードマネーがないと買えないことになる。そこで、財力のある親を持つ人や、大手企業の社員で住宅ローンのほかにいろんな銀行融資が可能な人たちを除いた大半の韓国人は、このシードマネーを作り出すのに気が遠くなるほど長い時間がかかる。
しかも、かろうじてシードマネーを手に入れた時点で住宅価格はさらに値上がりするので、韓国人にとってマイホームの夢はなかなか手に入らない「跳ね兎」のようなものだ。中年になっても手に入れられないソウルのマンション価格は、青年層の挫折を引き起こしている。
ある調査によると、韓国の未婚男女10人のうち4人は「マイホームを持ちたいですが、不可能そうだ」と考えている。
ところが、文在寅政府は15億ウォン以上の住宅について銀行から住宅ローンを全面禁止したのだ。他にも、9億ウォン以上の住宅については、住宅ローンの上限を20%へ下げてしまった。

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しかも、江南地域のマンションの場合は「江南不敗」という神話が生まれるほど、毎年住宅価格が高騰している。結局、富裕層は数十軒のマンションを保有するケースも少なくないが、一方で庶民はマイホームすら手に入れることがむずかしい実情だ。
文在寅政権は韓国国民が最も深刻な格差を感じている住宅問題を解決するため、江南圏のマンションと多住宅者たちを狙った「特別対策」を、これまで17回も発表した。しかし、対策が発表される度に住宅価格が高騰し、常に新記録を更新しているほどだ。
結局、18番目の対策では多数の物件を保有する人だけでなく、マイホームを用意しようとする人たちにまで融資を制限する「劇薬処方」が下された。これに加え、大統領府秘書室と高位公務員、そして与党議員たちには2軒以上の家を持っている人は売却することを強く勧告した。
人事や選挙の公式推薦に不利益が生じる可能性があることを示唆しながらだ。しかし、専門家らは、今回の政策も文在寅政権の手痛い失敗に終わる可能性が高いとみている。
進歩派市民団体の経済正義実践連帯(経実連)は、「誤った診断で中身のない対策」「来年の総選挙まで(票を意識して)現在の住宅価格の上昇傾向を維持するというシグナルではないかと疑われる」と批判した。
文在寅政権の政策パートナーである参加連帯も、「今回の対策も、依然として住宅価格を抑えるという意志は見えない」「最低でも住宅価格を文在寅政権以前の水準に戻すべき」と要求した。
12月20日、韓国ギャラップが発表した文在寅大統領の支持率は、先週より5%も下がった44%だった。ギャラップは支持率下落の主な原因について、「住宅価格の急騰と政府の今回の不動産対策による市場の混乱が悪影響を及ぼした」と分析した。住宅政策が文在寅政権の アキレス腱として浮上しているわけだ。