中国の習近平国家主席と台湾の馬英九総統が7日に、シンガポールで会談する。台湾では、来年の総統選で台湾独立志向の野党・民主進歩党(民進党)への8年ぶりの政権交代の可能性が高まっている中だけに、会談結果に世界の注目が集まっている。馬氏が先走った場合には、台湾の「反中感情」に火がつき、政情が不安定になる可能性も指摘されている。想定される3つのシナリオで会談の行方を読んでみた。
中国のメディアは連日、「習馬会」についての記事を掲載している。「習馬会」とは習近平、馬英九両人の会談を指す。南沙諸島の埋め立て問題で、中国が国際的批判を浴びている中だけに、「双方の平和と発展について意見交換するものであり、平和の勝利であり、理性の勝利だ」(政府系の人民網)と意義を繰り返し強調している。
一方で台湾の反応は微妙だ。1949年の分断以降初の会談を歓迎する声がある一方、「事前の説明がない」と不信感を示す意見も根強い。
この時期に突然会談が実現したのは、与党・国民党の馬氏が中国とのパイプの太さを示し、来年の総統選の不利を跳ね返そうという狙いだろう。中国側も、国民党を肩入れするため会談に合意したと思われる。
現段階では、3つのシナリオが想定される。
1つは中台の良好な関係を維持するという一般論だけを話し、民進党を牽制する。
2つ目は、中国が、台湾経済をてこ入れするための、思い切った政策を打ち出す。
3つ目は、中台の共存と、将来の統一を示唆する「平和協定」のような合意を行う。
可能性が高いのは2だろう。中国は「以経促統」(経済で統一を促す)政策を取っており、馬氏もそれを受け入れてきた。台湾を訪れた中国人旅行者は、2008年の約24万人から、2014年は398万人に達した。中台直行便は2008年に就航、すでに週700便近くになっている。
中台の貿易も拡大した。2013年の台湾から中国(大陸と香港)へ向けた輸出額は年々増加し、13年には全体の21%と、1位を占めている。2位は日本で10.8%だった。台湾の経済は中国抜きには語れなくなった。習氏は「以経促統」をさらに進める意向を表明し、交流の活発化を提案するかもしれない。
万が一「平和協定」に近い内容の合意が行われれば、台湾内部で亀裂が起きるだろう。台湾の人たちの対中国感情の主流は「現状維持」だ。2014年3月に、「ひまわり学生運動」と呼ばれる大規模な学生デモが起きた。中国とのサービス部門での市場相互開放などを盛り込んだ貿易協定の批准を急ぐ政府に対し、反対する学生たちが立法院(国会)になだれ込み、占拠した事件だ。
馬氏が、早いスピードで中国との経済協力を進めた結果、大量の中国人が台湾に押し寄せた。その結果、中国人観光客の爆買いで台湾の物価が上がり、彼らのマナーの悪さが問題になった。「不愉快な経済パワー」を見せつけられた台湾の人たちに、「自分たちは中国人ではなく、台湾人だ」というアイデンティティを高める結果となった。
最近では中国経済減速の影響を受けて、経済成長率も鈍化している。特に若年層の失業率が高くなっており、馬氏の内政での失敗も手伝って、中国への警戒感をいっそう高めている。
来年の台湾総統選挙では、民進党の蔡英文主席(女性)が、8月の地元テレビ局の世論調査で、支持率40%と圧倒的で当選確実な勢いだ。一方の国民党側は、親中国派と現状維持派が対立し、分裂の危機に陥っている。
不利な状況を跳ね返すことができるのか、台湾を混乱に陥れるのか、日本や米国など関係国も気が気でない。
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3つのシナリオで読む中台首脳会談
公開日:
(ワールド)
台湾の馬総統=Reuters
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五味 洋治(東京新聞論説委員)
1958年生まれ。中日新聞社入社後、韓国延世大学留学。ソウル支局、中国総局勤務を経て、米ジョージタウン大学にフルブライトフェローとして在籍。著書に「父・金正日と私ー金正男独占告白」など。
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