ドナルド・トランプ氏が米国大統領選を制した。これまでの公約ならぬ口約をどこまで実行するつもりなのか。今後の発言や振る舞い、閣僚名簿などをみないとその影響は読めない。しかし、超大国である米国の大統領に保護主義と排外主義をまとったトランプ氏が就くことは、一気にそれらが世界の潮流になりかねない。米国民は大きな選択をした。
トランプ氏は選挙に受けそうなことは何でもする、何でも言う候補だった。意外と現実的な人物と言われる面もあるので、公約をどこまで実行するのかはわからない。共和党の大統領候補になることをめざしていたころより、最近の2ヶ月ほどは穏やかな発言が目立つようになっていた。現実路線をとるとの楽観論があるのもこのためだ。
選挙戦でトランプ氏が唱えた公約をみてみよう。
ドル安政策、FRB(連邦準備理事会)批判、不法移民の本国への送還、所得税制の簡素化、環太平洋経済連携協定(TPP)の署名拒否と北米自由貿易協定(NAFTA)でのメキシコなどとの再交渉や高関税の実施など通商政策、日韓への駐留米軍費用の負担要求、中国・ロシアの指導者への親しみ、銃規制への反対、オバマケアの廃止――など、オバマ政権の路線をことごとく覆す公約を唱えてきた。すべて実行するというなら、世界の秩序は大きく変わる。
税制などを中心に、連邦議会が反対し、阻止されそうな項目も多い。全部実現できるはずがないのは明らかだが、大統領の権限は強い。4年後の再選をめざす上でも、通商などで保護主義、反移民政策を実施してくる可能性が高い。12月と予想されてきた米利上げに影響する可能性も少なくはない。
政策の優先順位をどうつけ、どこまで踏み込んでくるか。トランプ氏の今後の発言と、誰を主要閣僚に起用するかなどを見ないと、政権の性格はわからない。
中長期的に大きいのは、世界の潮流への影響だ。12月4日にはイタリアで憲法改正のための国民投票があり、同日にオーストリアで大統領選がある。来年4-5月にはフランスの大統領選挙、そして来年秋にはドイツで総選挙がある。米大統領選でのトランプ氏の当選は、それらの選挙に影響を与え、欧州連合(EU)への逆風がさらに強まる可能性は高い。
排外主義か現実路線か、トランプ旋風はどこへ行く |
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12月の米利上げ路線に影響も
公開日:
(ワールド)
Reuters
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土屋 直也:ネットメディアの視点(ニュースソクラ編集長)
日本経済新聞社でロンドンとニューヨークの特派員を経験。NY時代には2001年9月11日の同時多発テロに遭遇。日本では主にバブル後の金融システム問題を日銀クラブキャップとして担当。バブル崩壊の起点となった1991年の損失補てん問題で「損失補てん先リスト」をスクープし、新聞協会賞を受賞。2014年、日本経済新聞社を退職、ニュースソクラを創設
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