• tw
  • mail

カテゴリー

 ニュースカテゴリー

  • TOP
  • 独自記事
  • IT/メディア
  • ビジネス
  • ソサエティ
  • スポーツ/芸術
  • マーケット
  • ワールド
  • 政治
  • 気象/科学
  • コロナ(国内)
  • コロナ(国外)
  • ニュース一覧

トランプ大統領のG7招請、ロシアがやんわり拒否

あとで読む

【ロシアと世界を見る目】ロシアの中国重視を反映 政府ファンドの運用資産に中国元

公開日: 2020/06/10 (ワールド)

CC BY CC BY /Book Catalog

小田 健:ロシアと世界を見る目 (ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)

ドナルド・トランプ米大統領が5月末、主要7カ国(G7)サミットへロシアを参加させようと提案した。これまでも同じようなことを言っていたからそう驚くことではないが、新型コロナウイルスの感染拡大や香港問題をめぐり米中対立が新局面に入った中での提案であり、中ロ分断を図りたいとの腹づもりなのだろう。

 だが、そもそもロシアのG7参加にはほかの参加国の同意が得られそうにないし、仮に同意が得られたとしても、悪化する米ロ関係と緊密度を増す中ロ関係の現状を考えれば、ウラジーミル・プーチン大統領がノコノコとG7サミットの場にやってくるとは思えない。

 中ロ分断という意図には内心賛成する国はあるだろうし、この筆者自身、米ロ関係の改善が必要だと考えるが、今は絵に描いた餅だ。

 トランプ大統領は5月30日、G7サミットを9月に延期すると発表、その際、G7は「時代遅れ」のグループだと強調した。その上でロシア、オーストラリア、インド、韓国を新たに仲間に加えたいと述べた。これは単に4カ国をサミットに招待したいというのではなく、正式な参加国として迎えたいということだろう。

 トランプ大統領は特にロシアについて話し合わなければならないことがたくさんあるからロシアを参加させる必要があると述べ、翌31日には早速、プーチン大統領に電話して、意向を伝えた。

 プーチン大統領はどう答えたか。クレムリンの発表では具体的なやり取りは不明だが、実質的には拒否回答だったと推察される。
 
 ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は今月2日、トランプ提案について、中国抜きで世界の問題を話し合うことはできないと指摘、そうした場としてはG7ではなくG20がふさわしいと述べた。プーチン大統領もおそらく似たようなことを言ったのだろう。

 このほか、ロシアの政治家、評論家からはこうした対中配慮の反応がやたら目につく。

 コンスタンチン・コサチョフ上院国際問題委員長は、トランプ提案には中国を孤立させる意図が込められていると指摘、ロシアの著名外交評論家、フョードル・ルキヤノフも反中姿勢が反映されているとの見解だ。

 ロシアはボリス・エリツィン大統領時代の1997年からG7の仲間に加わりG8を形成していたが、2014年3月のクリミア併合を機にG8から外された。だから、G8への復帰を打診されて悪い気はしないのでは、と思ってしまうかもしれない。しかし、それが中国包囲網への参加の招待である以上、対中配慮からおいそれとは応じられないのだ。

 ロシアのシンクタンク、カーネギー・モスコー・センターのドミトリー・トレーニン所長によると、ロシア外交の重点はクリミア併合で米欧諸国から制裁を科され始めた2014年から「大ユーラシア」へと移り始めた。旧ソ連諸国、欧州諸国、そして中国との協調を視野に入れた外交戦略だ。それまでは米欧との統合が基本戦略の柱の1つだった。

 こうしてロシアは米国との関係改善を半ば諦め、中国重視を一段と鮮明にし始め、開発資金、技術、貿易、さらに軍事面でも関係を深めてきた。

 こうした中ロ接近の大きな背景として米国による一極支配に反対するという外交理念の一致を指摘することができる。

 ロシアの対中配慮は今回のトランプ提案への反応に限ってみられるわけではない。プーチン大統領は1月末に習近平国家主席に電話を掛け、感染拡大の危機を克服するよう応援しているし、その後も3月、4月、5月と電話会談している。

 セルゲイ・ラブロフ外相は4月に、中国への賠償を求める米欧などでの動きを「常軌を逸している」と一蹴、世界保健機関(WHO)が中国寄りだとの指摘にも反論し、中国の肩を持った。最近では米欧による香港に関連した中国批判に対し、「内政干渉だ」と中国と同じ事を言っている。
 
 ロシアは経済面で中国に気を使わなければならないという事情も抱える。ロシア経済の行方を大きく左右する原油と天然ガスの輸出環境が大きく悪化する中で、中国はかけがえのない大切な顧客だ。既にロシアの原油輸出の3分の1は中国向けで、天然ガスの対中輸出も増える。
 
 ミハイル・ミシュースティン首相は4月末にはロシアの政府ファンドである「国家福祉ファンド」の運用外貨資産に中国元、つまり中国国債を新たに加えることを決めた。

 もちろんロシアには中国傾斜への警戒感もある。ロシア科学アカデミー傘下の世界経済国際関係研究所(IMEMO)のアレクセイ・アルバートフ国際安全保障センター所長が5月29日のシンポジウムで、ロシアは中国とは一定の距離を置くべきだと述べたことは注目される。中国と軍事同盟を組んでいるわけでもないし、そうならないだろうと指摘した。

 ロシアがすんなりと中国の弟分に成り下がるとは思えないが、地政学的にも経済的にもロシアにとって中国との関係の重要性が増している。

 ロシアがトランプ提案に二の足を踏むもう一つの大きな背景は、トランプ政権の対ロ姿勢がぐらぐら揺らぎ定まらないことにある。

 ロシアは4月に新型コロナウイルス感染が急拡大する米国に人工呼吸器や防護服を送った。米国はこれに恩返しするように5月、6月と2度にわたり人工呼吸器をロシアに送っている。それに加えて今回、米国はロシアをG7に参加してもらおうと提案したのだから、両国関係は改善に向かっているかのように錯覚するかもしれない。

 だが、トランプ大統領が実際にロシアに対して実行してきた政策は極めて厳しい。まずは経済制裁。クリミア併合や2016年の米大統領選へのロシアの介入疑惑に関連して次々と対ロ制裁を科してきた。

 そして軍備管理分野でのロシアの意向を無視した一方的行動。トランプ大統領は昨年8月には冷戦終結へ道を開いた中距離核戦力(INF)全廃条約を廃止に追い込み、今年5月にはロシアも参加しているオープン・スカイズ条約から脱退することを決めた。

 米国との軍備管理交渉を担当するセルゲイ・リャボフ外務次官は5月29日、米国のナショナル・インタレスト誌との会見で、トランプ政権がロシアを真剣な対話の相手とみなしているのかどうか分からないと述べた。さらに驚くほど率直に、現在のような状態ではトランプ政権を信用できないと明言した。

 トランプ、プーチン両大統領は今年に入ってからも時々、電話会談しており、個人的な関係はそう悪くはないようだ。しかし、いかにトランプ大統領が対ロ関係改善の意思を持っていたとしても、議会は超党派でロシアに厳しい。

 したがって、プーチン大統領の対米姿勢は是々非々主義にならざるを得ない。前向きの話であれば乗るが、ロシアから下手に出て対米融和姿勢を取るつもりはないということになる。

 現在の米ロ間の最大の問題は両国の戦略核兵器の保有数などを制限している新START条約の扱いである。この条約は核兵器分野で米ロ間に残る唯一の、しかも極めて重要な条約だが、来年2月初めに期限切れを迎える。

 にもかかわらず米ロの交渉は延び延びになり、どうなるのかと気を揉んでいたら、8日、ようやく今月22日からウィーンで交渉を始めることで合意したとのニュースが飛び込んできた。

 マーシャル・ビリングスリー米軍備管理大統領特使はこの合意を明らかにした際、交渉の日程、場所に触れたほか、中国も招かれると指摘した。あたかもロシアも中国を招待することに同意したかのような発表だった。仮にそうであれば、対中での米ロ共同戦線の成立を物語る。

 中国は従来から一貫して核兵器交渉には加わらないと言ってきた。その中国に交渉の場に出てこいと要請することはロシアの対中姿勢からは考えられない――そう思っていたら、案の定、やはりそうではなかった。

 米国との軍備管理交渉を担当するセルゲイ・リャボフ外務次官は9日、中国が招かれるという米側の発表は「不可解だ」と述べ、中国に出席する用意があるとは承知していないし、ロシアは中国のこれまでの意向を尊重すると付け加えた。ここでも対中配慮が浮き彫りとなった。

 中国の核兵器を抑制する仕組みが必要であることには世界中の多くの人が賛成するだろうが、8日のビリングスリー特使の発表は米国の希望表明に過ぎなかった。
続報リクエストマイリストに追加

以下の記事がお勧めです

  • 【ロシアと世界を見る目】 米ロ軍縮また後退 米が領空開放条約から脱退

  • 【ロシアと世界を見る目】 プーチン「終身大統領」可能にする憲法改正

  • 小田 健のバックナンバー

  • バイデン政権 米軍のアフガニスタン全面撤退見直しも

  • コロナ対策の盲点、認知症と精神障害の感染者救護

  • 小池知事は言い放った「あれは情報漏えいですから」

  • 韓国、”資本主義の仮面を被った疑似社会主義体制”

  • プロフィール
  • 最近の投稿
avator
小田 健:ロシアと世界を見る目(ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)
1973年東京外国語大学ロシア語科卒。日本経済新聞社入社。モスクワ、ロンドン駐在、論説委員などを務め2011年退社。

avator
小田 健:ロシアと世界を見る目(ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長) の 最新の記事(全て見る)
  • 【ロシアと世界を見る目】プーチン大統領の長時間会見、健康不安の兆候見えず  -- 2020年12月18日
  • 【ロシアと世界を見る目】プーチン大統領の健康不安説、来月の大記者会見に注目 -- 2020年11月16日
  • 【ロシアと世界を見る目】ナゴルノカラバフ紛争終結 ロシア、なんとか面目保つ -- 2020年11月11日
Tweet
LINEで送る

メニュー

    文字サイズ:

  • 小
  • 中
  • 大
ソクラとは 編集長プロフィール 利用案内 著作権について FAQ 利用規約 プライバシーポリシー 特定商取引法に基づく表示 メーキングソクラ お問い合わせ お知らせ一覧 コラムニストプロフィール

    文字サイズ:

  • 小
  • 中
  • 大
  • 一覧表示を切替
  • ソクラとは
  • 編集長プロフィール
  • 利用案内
  • 著作権について
  • メーキングソクラ
  • お知らせ一覧
  • FAQ
  • 利用規約
  • プライバシーポリシー
  • 特定商取引法に基づく表示
  • お問い合わせ
  • コラムニストプロフィール

Copyright © News Socra, Ltd. All rights reserved